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てんかんと心因性非てんかん性発作(PNES)編
 「おかえり

(2022年10月号より)

 

社会に出てから

 

和島 やがて短大を卒業され、就職の時期になりますね。

 

うるうる 就職もかなり難航しました。というのも、当時うちの短大の知名度がすごく低かったんですね。女性の社会進出もまだ少なくて。でも、なんとか合格した所があって、新卒で入社できました。

 

和島 その時はてんかんのことをお伝えせずに?

 

うるうる そうですね。当時は大発作が全然起きなくなっていました。ときどきぼーっとして固まったり、物を落としても気づかずに立ち尽くしているとか、そんな発作(4)が中心になっていたので、「何とかなるだろう」と思い、あえて言わなかったですね。

 

和島 お勤めになられてみていかがでしたか?

 

うるうる ちょっと運悪く、最初に入った会社がいまでいうブラック企業みたいな所だったので、入社2か月ぐらいで「もう辞めたいです」と…。会社で具合が悪くなることはなかったんですけど、帰りに駅の階段から転落したり、深夜に帰宅して玄関でバタッと倒れたり。発作かわからないですが、とにかく倒れるようになりましたね。

転職をするタイミングで「てんかんの専門のお医者さんっていうのがいるらしいよ」って母が言ってくれて、県外のお医者さんのもとに母と行ったんです。その時に、「(うるうるさんの発作の原因は)てんかんが2割、ヒステリー(5)が7~8割」って言われたんです。医学用語としての「ヒステリー」ですけど、女の人がわがままに叫んでいるイメージがあったので、また母の誤解を加速させてしまって…。「あなたは会社から帰って倒れてるけども、結局それはヒステリーなのよ、甘えなのよ」っていう感じで、倒れている私の上を堂々とまたいでいったりしてましたね(笑)。

で、ちょっと時間とか余裕ができたので海外にも行ったんですね。アメリカで何箇所かホームステイをする機会に恵まれたんですけど、「アメリカ人はどんな反応をするのかな?」って思って、「じつはてんかんなんです」ってホストファミリーに言ったら、「ああ、そう!」って。「薬だけちゃんと飲んでいれば大丈夫なんでしょ」って言われて、すごい衝撃を受けたんですね。しかもそのホストファミリーの方は、うちの親よりもずっと年上で、日本だといちばん中傷してくるようなシニア世代だったんですね。すごいカルチャーショックみたいなのを受けて、「日本もこうなればいいなあ」って思って、ちょっとずつ、「言える人には言ってみようかな」っていう勇気を貰えたんですね。

 

和島 当時はおいくつだったんですか?

 

うるうる 20代前半から後半ぐらいですね。

 

和島 お連れ合いの方との出会いもそのころだと伺いました。

 

うるうる はい。仕事が終わってアフターファイブを楽しむようになったころ、入った飲食店で「お薬の時間だー!13錠一気飲みー!」とか言って、平気で人前で飲んだりしていたんですね。そしたら、その店にいたいまの主人が、「いったいどんな病気になったら、一度にこんな大量の薬を飲むハメになるんだろう」って疑問に思ったらしく、「それ、なんの薬?」って訊いてきたんですね。昨日、主人にも「この話、していいか」って確認をとったんですけれども、「なんの薬?」って訊かれた私はすぐには答えなかったそうなんですね。

 

和島 そうなんですか。

 

うるうる はい。「頭が良くなる薬」って答えたらしいんですね(笑)。てんかんがある人からすると脳(の疾患)なので。そうやってお茶を濁して答えた。でもやっぱり主人が、「なんの薬?」って訊いてきて、「じつはてんかんの薬なんだよ」って言ったらしいんですね。その時、主人も「ああそう!友達にもいるから!」で終わっちゃって。さっきのホストファミリーに次ぐ反応の薄さに拍子抜けしてしまったんですね。まあ、そういう人だったので、一緒にいてあまり気をつかうこともなくて。「てんかんでも全然OKなんだ!」って安心していられたので、結婚することになりました。

主人はサラリーマンでしたので、結婚してすぐに京都に異動になったんですね。で、保健所で、「どこの病院に行ったらいいですか?」と訊ねて紹介されたのが、当時とても勢いのあった関西てんかんセンターだったんですね。私は自分がどんな薬を飲んでいるのか全然分かっていないまま、袋に入った薬を持って行ったと思うんですね。そしたら、てんかんセンターの新しい先生が「よくもこんな処方を!」って。「この中のお薬の大半は医者が儲けるためだけのどうでもいい薬ですよ。こんな処方をして、同じ医者として本当に申し訳なく思います。うるうるさんのことは私が責任を持って治療します」って、頭を下げられたんですよね。「なんだ、この先生は?」と思って(笑)。

 

和島 (笑)

 

うるうる その先生、なんにも悪くないじゃないですか。

 

和島 うんうん。

 

うるうる なのに、なんでこの先生は頭を下げてるんだろう。変な人だなぁって思って。でもなんか、悪い人じゃないみたいなので(笑)。

 

和島 めちゃくちゃ感動します。

 

うるうる 初めて一人前に扱っていただけた。こんなお医者さんいるんだと思ってすごくビックリしました。なので、その新しい先生のもとに母を連れて行きました。すると、「娘さんがてんかんになったのは、お母さんのせいなんかじゃありません。誰のせいでもありません」って仰っていただいて…。

 

和島 うん、うん。

 

うるうる そこで初めて、母が「不安ななか育児をしてきたんだ」と。そういう話を女性同士としてできるようになったんですね。で、やっぱり何となく、すごく欲が深いのかもしれないんですけれども、「子どもが欲しいな」って、次の夢を持つようになりました。

4 欠神発作のこと。4~15秒ほどで元の動作に戻るので周囲の人は気づきにくい。

5 ヒステリー発作のこと。心理的な問題やストレスを原因とする発作と考えられている。以前は偽発作とも呼ばれていた。

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