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SUDEP啓発編
 「生きてください」
(2019年12月号より)
啓発の意義

私がてんかんと診断されてから20年以上が経ちますが、SUDEPの存在を知ったのは3年前のことです。Sudden Unexpected Death in Epilepsy(てんかんによる突然死)。その略称がSUDEPです。

てんかん患者の死因といえば発作による二次被害(外傷や溺水)を思い浮かべる方が多いと思いますが、それ以外にも原因不明の突然死SUDEP(重積発作は除かれる)が挙げられるのです。発生率は年間1,000人に1人。患者の死因の10%を上回ると報告されています。日本における疫学調査は現在東北大学で行われています。

しかし、その結果を待つ前に客観的な事実に基づいた啓発を行っていく必要があると考えます。今回は、てんかん専門医の渡辺雅子先生をゲストにお招きして、SUDEPを取り上げることに対する葛藤やご遺族とのエピソードについてお話しいただきました。また、てんかん患者のユキさん(40代女性)、コンさん(30代男性)、ハチさん(20代男性)には、SUDEPを知った時の気持ちと、この問題を家族と共有する上での心構えについてお話しいただきました。

SUDEPとは

 

和島 こんばんは。ぽつラジオの和島です。この番組では、私たちが普段てんかんと共に暮らしながら考えていることをぽつりぽつりと話しています。今日はてんかん専門医の渡辺雅子先生をゲストにお招きしています。

渡辺 渡辺雅子です。元々は精神科医です。今はてんかんの方を中心に拝見しております。新宿神経クリニックというてんかん専門のクリニックの院長をしています。よろしくお願いします。

和島 今回のテーマは「SUDEPの啓発」です。まずはじめにSUDEPの説明をさせていただきます。SUDEPとは Sudden unexpected death in epilepsy の略であり「てんかんによる突然死」を意味します。“良好な状況にあるてんかん患者に起きる、突然の、予期せぬ、外傷や溺水が原因ではない死」と定義されており、てんかん重積による死は除かれますが、てんかん患者の死因の10%を上回るとされています。年間1,000人のてんかん患者に対するSUDEPの発生率は1.1〜9.3件と報告されています。また、静岡てんかん・神経医療センターが公開している『てんかんの死因に関する横断調査』では、SUDEPの危険因子が9つ挙げられています。

1. 高い発作頻度
2. 強直間代発作の存在
3. 抗てんかん薬の多剤併用
4. 頻回の薬剤変更
5. 怠薬や急な服薬中断
6. 夜間監視の欠如
7. 長い罹病期間
8. 若年成人
9. 男性

 

また、Epilepsy & behavior 誌オンライン版(2017年9月13日号)の報告によると、「夜間発作の患者は日中発作の患者よりも死亡率が6.3倍高く」、「睡眠時に死亡した患者の87.6%は腹臥位(うつ伏せ)」であることがわかっているため、夜間監視や睡眠時の体位には注意が必要かと思われます。てんかん患者における突然死のリスクは、一般健常人の方よりも27倍高いことが知られています。そこには外傷や溺水を原因とする突然死も含まれていますが、今日は原因不明の突然死SUDEPと、その啓発について専門医の渡辺雅子先生を交えてお話ししたいと思います。

専門医でさえ取り上げるのを迷ってきた問題

渡辺 これは、てんかんの方にとって非常に大きな問題なんですけれども、患者さんにこういうことがおき得ますというのはなかなか申し上げにくくて…。申し上げなくてはいけないと思いつつも、てんかん専門医でさえ取り上げるのを迷ってきたことです。ですから今回、患者さんたちがこのテーマを取り上げて話してくださるのは非常に勇気あることで、とても大事なことだと思います。取り上げてくださると、私たちとしても話しやすいです。

和島 いま日本では、SUDEPの調査はどれくらい進んでいるんですか?

 

渡辺 現在、東北大学の脳神経内科の神先生という方が日本全国に呼びかけてSUDEPで亡くなられた方のデータを集めていらっしゃいます。複数の施設で協力して沢山のデータを集めた方が、傾向や防止策を探しやすくなるので当院もそれに協力しています。ぜひ結果が出るのを注視していただきたいです。

 

和島 ありがとうございます。SUDEPに関してはインターネットでも情報を得ることができますが、診療の際に患者さんからそのリスクについて訊かれることはありますか?

 

渡辺 それはほとんどないですね。以前、私のクリニックに通っていらっしゃった患者さんがSUDEPで亡くなられた時、そのお母さんに私からお話しをしたんです。「実はてんかんの方には、こういうことが一般の方より高い確率でおきるんです。そのことをご家族にも、ご本人にも話しておかなかったのは申し訳ないと思います」。すると、そのお母さんは、「話さないでいてくれてよかったと思います。原因も防止策もはっきりとわかっていない段階で『あなたのお子さんは一般の方よりも高い確率で突然死する恐れがありますよ』ということを聞いたら、私は子どものことが心配で心配で、外にも出せなかったし、24時間付きっきりでいないといけなかっただろうと思う。それは息子の成長にはよくなかったと思う」という風に仰られたんです。

 

和島 そうだったんですね。

 

渡辺 もちろん、全員のお母さんがそういうわけではないと思いますけれど。

 

和島 防止策がないことは、SUDEP のリスクを伝えられない理由のひとつに挙げられますか?

 

渡辺 それもありますし、てんかんの診断と同時に「突然死する可能性があります」と伝えたとすると、患者さんが二重に辛い思いをされることになるので、いつか言おうと思いつつそのままになっているのが、ほとんどの担当医の正直な気持ちじゃないでしょうか。

専門医以外はSUDEPを知らない?

 

和島 先生は長い間てんかん患者を診てこられましたが、SUDEPの存在を知ったのはいつ頃ですか?

渡辺 大学の精神科にいた8年間は、あまり認識はなかったですね。静岡てんかんセンターに行ってからです。

和島 その後にSUDEPという定義が出てきたんですか。

渡辺 どっちが先かは覚えてないですけど、突然亡くなられる方がいるのは、静岡に行けばすぐに分かりました。

和島 そうなんですか。もうひとつお伺いしたいんですけど、てんかん専門医以外のお医者さんにはSUDEPの知識はちゃんと行き渡っているんでしょうか。

渡辺 私の想像ですけど、おそらくそういう知識は(専門医以外には)ほとんどないでしょうねぇ。時に私がする講演のテーマにSUDEPを入れることがあるのですが、その講演を聞きに来られたドクターの方たちに聞くんです。「過去にご自分が担当されていた患者さんが突然亡くなられた経験をされた方は手を挙げてくださいませんか」と。手を挙げられるのはごく一部です。仮に100人いらっしゃったら、そのうちの9人もいらっしゃらないと思うんです。その経験をした方は、かなりのてんかんの患者さんを診ていらっしゃる専門医で、それ以外の9割の方たちはそんなにたくさんのてんかん患者さんを診ていらっしゃる方ではないので、SUDEPを経験されることもなく、SUDEPがあること自体も恐らくご存知ないと思います。

和島 ということは、ご遺族も死因が分からないままでいらっしゃる可能性もあると…。

 

渡辺 うーん、そうですね。例えば、大病院などに通っていらっしゃる方が、あるとき突然受診されなくなった場合は、警察やご家族からの問い合わせがない限り、突然死されたという認識が、医療側にもないかもしれませんね。

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