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症候性てんかん編
 風当たりはどうですか?」

(2017年8月号より)

 

出会い

今回のゲストのユキさんとは、通院先の待合室で知り合いました。お互いにてんかんの啓発活動をしていたので、それを知っていた看護師さんが引き合わせてくれたのです。私が「ぽつラジオ」の説明をすると、どうやら彼女もラジオを聞いてくれていたようで、また後日話しましょうということになりました。そこでユキさんが差し出してくれたのが、ご自身の経営するカフェの名刺でした。

都内某所にあるそのカフェは、週末のみ営業しています。てんかんを発症してからは、体に負担のかからない営業スタイルに変えたとのこと。いただいた名刺を頼りにそのお店に訪れた私は、改めてユキさんとお話しすることができました。そこで頻繁に話題に挙がっていたのが、もうひとりのゲストであるユニさん(仮名)の存在でした。てんかんと知的障害のあるお子さんをお育てのお母さんで、柔らかい口調ではっきりとものを言うらしいその女性を、ユキさんはとても慕っているようでした。親子ほど年齢の離れたふたりの関係に関心を持った私は「ぽつラジオ」への出演を依頼しました。

後遺症としてのてんかん

 

和島 「ぽつラジオ」では、てんかんを取り巻く環境について、私たちが思っていることを、ぽつりぽつりと話しています。今回は、難治てんかんと重度知的障害を持つ患者さんのお母さんであるユニさんと、てんかん患者のユキさんをお招きしています。まずはユニさんから、息子さんがてんかんを発症した経緯についてお話しいただけますか。

 

ユニ 息子は31歳の素敵な青年に育ってくれました。けれど、忘れもしない2歳8ヶ月の3月5日、風邪のばい菌が脳に回って、脳症になってしまったんです。昨日までは元気に遊んでいたのに、脳症の後遺症でてんかんという病気を発症して、知的にも障害を負ってしまって…。とても混乱していて、自分がどんな気持ちだったかがわからないんです。悲しいとか悔しいとか不安とか、そういうふうに名前がつけられないというか…。しかも、その子の下に生後10ヶ月になる2人目の息子がいました。

 

和島 今日は、ユニさんがお子さんたちとどのように歩んできたのかということについて伺いたいと思います。次に、ユキさんがてんかんを発症した経緯について教えていただけますか。

 

ユキ はじめに高熱とめまいがあって、手の感覚も変でした。大学病院で検査をしたところ、脳に膿が溜まる脳膿瘍(のうのうよう)という病気で、手術が必要だと言われました。開頭手術か、頭に穴を開けてチューブで膿を吸い取る手術のどちらかを選ぶように言われて、後者を選びました。その後遺症でてんかんを発症しました。

 

ユニ 後遺症としててんかんを発症したところと、高次脳機能障害を負ったところは、私の息子と共通していますね。

 

和島 発作の頻度はどれくらいですか。

 

ユニ 息子は週に1回くらい、起床の直前に起きます。体の片側から始まって全身がけいれんする二次性全般化発作です。朝起きる前で膀胱におしっこが溜まっているので失禁を伴います。薬はバルプロ酸のセレニカRを300mg、テグレトールを600mg、イーケプラを3000mg、メイラックスを5mg、ピドキサールを1日3回。それと抗不安薬を夜に飲んでいて、漢方薬も3種類飲んでいます。1ヶ月のお薬がスーパーの袋1袋分くらい。

 

和島 いろいろ調整して現在の状態になったのですか。

 

ユニ そうです。セレニカRとテグレトールは変わらずに飲んできましたが、新薬も試しています。薬が効いているので日中の活動中に発作を起こすことは少なくなりましたが、発作をゼロにしようとは思っていません。これ以上薬を飲んで頭がぼんやりして、楽しみたいことを楽しめなくなることの方が残念なので。彼がいろんなことを楽しめて、だけど安全に過ごせることが私たちの望みです。

 

和島 ユキさんの発作の頻度はどれくらいですか?

 

ユキ 今は年に1回で、現在服用しているお薬はイーケプラとラミクタールです。はじめは全身発作を起こす状態だったので、エクセグランを単剤で、その後にフェノバールを単剤で試しました。ただ、副作用で発疹が出てしまい、(他の点滴抗菌薬を含めて)どの薬が自分に合うのかわからなくなったので、(医師の判断で)注意を払いながら断薬しました。その数日後、大きな発作が起きたので、今度はデパケンとイーケプラを飲むようになりました。発作の回数は減りましたが、妊娠を考えていたので、デパケン(妊婦もしくは妊娠を希望する女性への投与は慎重に判断される)からラミクタールに移行しました。これも発疹が出やすいということで、小児用のちっちゃい粒から飲み始めましたが大丈夫でした。私も新薬を勧められたり、薬を増やしますかと聞かれたりしますが、自分の体の力を信じたいのでお断りしています。

発作が起きたときの気持ちを教えて欲しかった

 

和島 おふたりが出会われたきっかけについて教えていただけますか。

 

ユニ てんかんの女性と患者さんのお母様だけの集まりがあって、そこでユキさんに会いました。歳はうんと離れているんですけど、仲良しになりました。ユキさんの場合、あれよあれよという間に手術になって、その後遺症としててんかんを負ってしまったわけですけど、それを「しょうがない」と受け止めてリハビリを頑張っている。そういうところに惹かれました。

 

和島 ユキさんは、てんかん患者のお母さんであるユニさんに相談したいことがあったのでしょうか。

 

ユキ ありました。例えば、子どもに発作が起きたとき、お母さんはどれくらい心配なのかなとか。そういうことは自分の親に聞けなかったりするので…。もしかすると、「そんなことないよ」と言ってもらいたかったのかもしれない。

 

和島 ユニさんはいかがですか?

 

ユニ 私の息子はことばが話せないんですね。31 歳の青年らしく気立てのいい子には育っているんですけど、能力は1 歳6ヶ月なのだそうです。発作がどのくらい苦しいのかを話すこともできません。だから、発作の時にどんな気持ちなのか、体はどんな状態になるのか、頭が痛くなるのか。そういうことをユキさんに教えて欲しかったんです。それに、ユキさんは自分で考えてイーケプラとラミクタールを服用してるでしょ。うちは息子の意志は関係なく、母親と先生だけで相談して、たくさんの薬を飲ませてしまっている。けれど、やっぱりその副作用はあると思うので…。ユキさんは、お薬を飲むことがどういうことなのかを教えてくれるので、私にはとても頼りになる存在なんです。

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