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症候性てんかん編
風当たりはどうですか?」

(2017年8月号より)

“いい子”の枠を外せるように

 

和島 ユニさんには、もうひとりのお子さんがいらっしゃいますね。

 

ユニ はい。上の息子が病気を発症した2歳8ヶ月の時、下の子は10ヶ月でした。でも、私はお兄ちゃんを育てることでいっぱいいっぱいだった。当時は今よりも発作の頻度が多かったので、その都度お兄ちゃんを心配するお母さんを見ている下の子は、わがままを言えなかったと思います。でも彼は、私のことをよく笑わせてくれるいい子で、学校に入ってからもお勉強がよくできて、スポーツ万能で運動会でも活躍してくれました。本当は我慢をしていい子を演じていたのに、私は気づいていませんでした。

やがて、小学校を卒業しようとしていたお兄ちゃんに精神症状が表れるようになりました。思春期になると、脳が活発に発達していくので、それに伴って乱暴になったり奇声を上げたり、生活のリズムが昼夜逆転になったりするんです。夜中にドンドンと音を立てて大騒ぎをしていたのは、同じマンションの住民にも聞こえていたと思います。だから、周りに迷惑をかけないで済むように家を建て、引っ越しをしました。お兄ちゃんにとっては小学校を卒業した区切りの時だったのですが、弟は小学校5年生という微妙な時期に差し掛かっていました。「自分ってなんだろう」とか「お友達ってなんだろう」とか、そういうことを考えていた時期の転校だったんです。けれど、彼はやっぱりいい子でした。転校して3日もしないうちに友達を家に連れて来て一緒に遊んで。担任の先生にも、「馴染んでいるし、よかったですね」と言われたので安心していました。

私たち家族は、休みの日になると家族全員で公園に遊びに行っていっぱい体を動かすようにしていました。「広い公園で伸び伸びと遊んで発散することが家族の元気のもとになる」と夫が考えてくれていたんです。だけど、いつも目で追っているのお兄ちゃんなの。私も夫も「それじゃダメだったね」って…。次第に下の子の悩みに向き合わなくてはいけないと考えるようになりました。彼はいつもお兄ちゃんの付録みたいに付いて歩いて、私を支えて、甘えることもわがままを言うこともできなくなっていた。そんな次男に育っていたことに気づかされたんです。

それからは下の息子とだけお出かけする機会を作りました。夫と下の子、もしくは私と下の子だけで公園に行ったり、映画を観に行ったり、コンサートに行ったり。「あなたがいてくれるから幸せだし、あなたを大事にする」と伝えていきました。でも、ずっとやってきたことって急には変えられないのね。息子はずっといい子でした。高校は進学校に進み、部活も頑張って…。そんな息子でした。


ある時、保護者面接で担任の先生が仰ったんです。「お宅のお子さんは本当に欠点がない。真面目だし、よく頑張ってるし、本当にいい子なんです。だけど、高校生の男の子って馬鹿なんですよ。馬鹿なことで騒いだり、やんちゃなことをするのに、彼はそういうことをしない。それはおかしいことですよ。欠点がないことが彼の欠点じゃないでしょうか。だから、その“枠”を外すことが必要だと感じます」と。その言葉、本当にありがたかったです。私は家族の状況を説明して、下の子がわがままを言えない子どもに育ってしまったことを話しました。そして、「その“枠”を外せるように先生やお友達にもお願いしたいです」と伝えました。

そして、“枠”が外れたのは大学生になってからでした。入学した途端、髪を金色に染めて、『ドラゴンボール』の悟空みたいな感じに突っ立てちゃって。先輩から譲ってもらったバイクを乗り回して、無断外泊もいっぱいしました。自分で殻を破って、いい子にしていなくちゃいけないっていう呪縛から解かれたのかなと思って、涙が出るほど嬉しかったです。仕事に就いてからは、「お金が貯まるまでの1年間、家においてください」と言って、本当に1年経った時にアパートを見つけてきました。「僕はなんだか一人暮らしが向いてるよ」と言って自分の生活を謳歌しているみたい。

 

自分を理解したかった

 

ユニ どんな風に子どもを育てればいいのかっていうことは、教科書には載ってないですけれど、全部子どもたちが教えてくれたなあと思っています。上の息子が病気になったことは残念であったけれど、私はとても幸せだなあと思っています。今もそうだけど、こんなに自分のことを語って、深く自分の思いを聞いてくれる人に出会えてきているんですよね。

子どもが小さい頃はすごく混乱していたし、イライラしたお母さんでした。当時の私は、考えることと感情が一致せず、離れていたんです。頭ではわかっていても、感情が追いつかず、考えていることとは違う行動をとってしまう。だから、その原因をわかりたくて、心理学を学ぶために大学に入り直しました。人間の心理を学ぶことで自分を理解して、いろんな人たちのことを理解しようとするようになったんです。そうしてやっと…やっと、上の息子が特別支援学校の高等部を卒業する頃には、もう息子が愛おしくて可愛くて、なんて素敵なのって。そう思える自分に変わっていたんです。

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